老いなき世界の探求

お茶は、長い年月にわたり日本の暮らしの中で
こころとからだの調子を整える飲みものとして親しまれています。
香りや成分がもたらす穏やかな作用に加え、
向き合う時間そのものが気持ちを落ち着かせてくれます。
お茶は無理なく続けられる「健康習慣」として日常に根づいています。

Lifespan - why we age and why
we don’t have to

私は、デビッド・A・シンクレア ハーバード大教授の著書『LIFE SPAN―老いなき世界』に深い感 銘を受けました。老化を病と捉え、その進行を遅らせるために分子レベルで介入する⻄洋医学の先端的 な視点は、私たちの未来に新たな希望を示しています。しかし、老いは単に遺伝子や細胞の変化にとど まらず、日々の生活習慣や心の在り方とも密接に関わっています。

そこで私は、⻄洋医学の科学的根拠を基盤としながら、東洋医学の叡智――気血水の調和、食養生、 瞑想や呼吸法、自然との共生といった要素を取り入れることに大きな意義を感じています。例えば、食 事においては有機食材や発酵食品、抹茶など抗酸化作用を持つ伝統食を取り入れ、身体面では適度な運 動と柔軟な身体操作を実践。さらに精神面ではマインドフルネスや茶道的所作により心を鎮め、ストレ スを和らげます。 茶道家としての視点から申し上げれば、一碗の茶を点てる所作には「今この瞬間を大切にする」知恵 が宿り、和・敬・清・寂という茶道の精神は老いと向き合う心の軸を与えてくれます。

すなわち老化へ の対処は単なる医学的延命ではなく、暮らしの美と心の静けさを取り戻す営みであり、東⻄の知を融合 することでこそ、真に健やかな「老いなき世界」が花開くと考えます。

健やかさを支える三つの要素

お茶の背景には、大地・技術・体験が連動する自然な循環があります。
このつながりが、お茶が健康に寄与する理由のひとつです。

1. 大地 ― 有機栽培
健やかな土壌で育った茶葉は、自然本来の力を含んだまま収穫されます。
有機栽培による茶づくりは、私たちのからだにとってもやさしい素材を生み出します。

2. 技 ― 発酵と加工
日本の発酵文化や製茶の工程には、腸内環境や免疫、代謝のバランスを支える知恵が息づいています。
発酵食品や日本酒も、この流れの中で大切な役割を持っています。

3. 体験 ― お茶の時間とつながり
一服に向き合う時間は、気持ちを落ち着かせ、五感を通じて自分自身と向き合う機会をつくります。
人と人が関わる場としてのお茶の時間もまた、心の安定に寄与する大切な体験です。
これら三つの要素が循環することで、「有機茶道」の考え方が形づくられています。

お茶の時間がもたらすもの
つながり、好奇心、五感の働き

お茶の席では、五感が自然と開き、気持ちを落ち着かせるための環境が整います。

人と向き合い、言葉を交わし、器の手触りや香り、音に意識を向けることは、
心の安定や認知の働きを保つうえでも大切な時間です。

また、味わいや季節のうつろいに触れることは、知的な好奇心をゆるやかに刺激してくれます。こうした体験が重なることで、お茶のひとときは、日々を健やかに過ごすための落ち着いた習慣となります。

日々の習慣としてのお茶

健やかさは、力んで手に入れるものではなく、
日々の中で続けられる落ち着いたリズムから生まれます。

特別な道具は必要ありません。

お湯を用意し、静かな時間に向き合うだけで、
一杯のお茶はこころとからだを整える習慣になります。
無理なく続けられる小さな行為として、お茶は日常の中で健やかさを支える存在です。